LOGIN朝の教室に足を踏み入れたセリウスは、途端にざわめきに包まれた。
「おい、来たぞ!」
「二連続だってよ、怪談解決!」 「『彷徨う鎧』に続いて『呪われた肖像画』まで!」どっと拍手と口笛が起こる。あっという間に人垣ができ、セリウスは逃げ場を失った小動物のように囲まれてしまった。
(……またか。恥ずかしいなぁ)
「すげえじゃんセリウス! 学園七不思議ハンターだ!」
赤毛のリディアが、悪戯っぽい笑みを浮かべ、力加減を考えない手のひらで私の背中をばんばん叩く。身体がぐらぐら揺れ、思わず情けない声が漏れそうになった。「『血の涙の肖像』に飛び込んで、額縁から仕掛けを取り出したんだろ?」
「いやあ、俺だったら悲鳴上げて逃げてたな!」「ち、ちがっ……そんな派手なことはしてないよ! ちょっと上を探ったら瓶が出てきただけで……」
必死に弁解するが、クラスメイトたちは耳を貸さない。「またまた~、謙遜しちゃって!」
「英雄は控えめなぐらいがちょうどいいってな!」茶化す声に混じって、羨望や好奇の視線が突き刺さる。
セリウスの顔は真っ赤に染まり、居心地悪そうに頭を抱えた。そんな中、長身のオルフェ・ダランが腕を組んで歩み出る。人垣が自然に割れ、彼の大柄な体躯と鋭い眼差しに一瞬空気が引き締まった。
「ふむ……度胸と観察眼は認めてやる。だがセリウス、次は俺も同行させろ。仕掛けを見抜く前に俺の大剣で叩き斬ってやる」「いや、それだと証拠が残らないだろ……」
セリウスは小声でつぶやく。黒髪のレオン・フィオリは、何か舞台に立つ俳優のように髪をかき上げ、優雅な笑みを浮かべた。その仕草ひとつで周囲が静まるほどの余裕を漂わせていた。
「二度も悪戯を見破るとは、偶然ではないな。……セリウス、君は将来、探偵か魔道学者の道に進むべきじゃないか?」「えっ……僕、騎士志望なんだけど……」
しどろもどろに答えるセリウス。その後ろから、気配もなくすっと現れたのはフィオナだった。まるで影から抜け出してきたかのように、彼女は当然の顔で輪の中に加わった。
「みんな忘れてるけど、私も一緒にいたのよ?」 腰に手を当てて胸を張る。 「つまり、今回の『怪談調査隊』は私とセリウスとアランの三人。……セリウスだけじゃなく、私にも喝采をどうぞ?」「フィオナは、突然現れるなあ……どこから来たんだよ!」
アランが即座に突っ込むと、教室がまた笑いに包まれた。セリウスはますます縮こまるように肩をすくめる。
――だがその胸の奥では、ほんの少しだけ誇らしさが芽生えていた。「上級生の悪戯にも、困ったもんだよなあ。俺たちを怖がらせて面白いのかね?」
「なんだか、毎年新入生が脅されてるみたいだよ。もう、伝統みたいなもんだね」 「もう、慣れちまって、七不思議なんて恐かないぜ!」 「来年俺達もやるか?」「おいおい! そういう悪戯は、やめようよ。皆怖い思いをしたんだろう」
皆を止める。「はいはい。英雄様がそういうんじゃ、しかたないな」
そんなことを言いながら、皆が席に着く。一限目の授業が始まろうとしているのだ。ガヤガヤとした笑い声を断ち切るように、担当教諭が入室し、教壇にドンと教科書を置いた。空気が一気に改まる。
「皆、よく聞けー! 6月に野外訓練が行われる。今日は、その班分けを行う。野外訓練は王都郊外のミルリオ森林で行われる魔獣討伐訓練である。騎士団の仕事は、郊外の魔獣を減らす事も含まれる。市民の生活を守るため、増え過ぎた魔獣を減らすのは、騎士団の大きな役割だ。通常は、冒険者達が狩りで減らしているが、大量発生時には騎士団が主力だ。心して訓練に当たるように。それでは五人一組に別れろー」セリウスとアランが視線を交わす。言葉はいらない。互いの眼差しには『当然一緒だ』という意思がこめられていた。そこに赤毛のリディアが割り込む。
「一緒にやろうぜ、英雄様!」
「だからその呼び名はやめてくれ! 私はアラン様の寄子に過ぎない」
慌てて手を振る。胸の奥にじんわり誇らしさを覚えながらも、顔に出すまいと必死に取り繕った。「はいはい、控えめなのは分かったよ。で、入れてくれるんだろ? アラン様?」
アランが無言で頷いた。そこへ、長身のオルフェ・ダランが腕を組んで歩み寄り、胸をはった。自信満々の歩調はまるで舞台に上がる俳優のようで、クラスの視線をさらっていった。
「俺も同行させろ。魔獣なんてお前らが出る前に、俺の大剣で叩き斬ってやる」 こいつはいつも偉そうだ。「僕も君達とご一緒させてくれるかい?」
黒髪のレオン・フィオリが、涼やかに微笑んだ。「五人一組だから……これでちょうどいいね」
私がアラン様を見やると、彼も頷いた。「うん。悪くないメンバーだ。なかなか強そうだしね」
「ふん! 魔獣など、俺一人で退治してやる。お前らは俺の後ろで、安心して見学でもしていろ」
「はいはい。オルフェは前衛決まりだね」
リディアが、手を振って、うるさそうにオルフェを払う。オルフェが苦虫を噛み潰したようにリディアを睨んだ。「オルフェが大剣、リディアは短槍、僕が長槍。アランとセリウスが長剣で良いかな?」
レオンは冷静に全体を見渡しながら、戦術を組み立てる指揮官のように役割を割り振っていった。「そうなるね」
レオンの問いにアランが答える。「じゃあ、フォーメーションは、前衛を大剣、中衛を槍、後衛を長剣っということで良いですか?」
レオンがまとめる。「俺は前衛で満足だ」
「俺もそれで良いよ」
「前衛で剣を振いたいところだが、私も後衛で構わないよ」
言いながらも、アランの拳にはほんの少し力がこもっていた。「アラン様がよろしいのなら私もそれで」
「じゃあ決まり!」
リディアがにっこり笑ってハンズアップする。「ところで、リディア。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「きみ、ダンジョンの罠でも見破れるかい?」
「ダンジョンには、入ったことがないから分からないけど、森や要塞にある罠なら見破れると思うなあ」
「なら、ダンジョンでも大丈夫じゃない?」
「なぜそんなことを聞くんだい?」
リディアが首を傾げる。彼の目には好奇心の光が宿り、聞かれること自体を楽しんでいるようだった。「ダンジョンに一緒に潜るメンバーを探しててね。罠を見破れる人とか魔法を使える後衛がいればと思ってるんだ」
「ダンジョンねー。面白そうじゃないか。俺もやってみたいね」
リディアが即答する。「面白い。僕は魔法も使えるよ。よかったらメンバーに加えてくれない?」
「レオンが入ってくれるならありがたい。実は、誘おうと思ってたんだ」
「おい! 大剣使いの頼れる前衛はいらないかよ?」
オルフェがじろりと睨んできた。「どうします? アラン様」
「本当は回復魔法が使える僧侶とかが欲しかったんだけどね」
「回復薬をガッツリ背負って行ってやるよ」
「四人より、五人の方が安心かな?」
アランが小首を傾げる。「荷物、かなりかつげそうだしね」と賛成した。
「おいおい、俺は荷物持ちじゃねーぞ!」
オルフェが真っ赤になって怒鳴り、教室に笑いが弾けた。その必死さが余計に皆の笑いを誘った。「ダンジョンは、奥まで行くには長丁場になる。ダンジョン内で野営をすることを考えれば、人数は多い方が良いかもね」とリディア。
「夏休みになるまでは、日帰りで経験を積む予定だから野営をするのは夏休み中だね」
「俺は、いるのかいらねーのか?」
拗ねたような声に、四人は思わず顔を見合わせる。笑いを堪えきれず肩を震わせながら、オルフェに向き直って言った。
「「「いるに決まってるだろう!」」」
――ヴァルロワ学舎・翌夜。 その夜、ヴァルロワ学舎は静まり返っていた。 昼間の喧噪が嘘のように、校舎の灯りは消え、月光が石畳を淡く照らしている。 だが、誰も知らぬところで、もう一つの授業が始まっていた。「全員、聞こえるか?」 中庭裏の温室跡。セリウスたち《調査班》は通信魔導具を通じて連絡を取り合っていた。 アランの低い声が響く。「今夜の任務は学舎内部の監視記録の確認。帝国スパイが使った出入り経路を洗う。外部と通信している可能性のある教員リストも照合するぞ」「了解」 セリウスが頷き、懐の通信魔導具に手を触れる。 淡い光が灯り、フィオナの通信魔導具がそのデータを受信した。「こっちは南棟の通信回線を解析中。……おかしいわね、通常の魔力波が途切れてる。誰かが意図的に遮断した跡かしら」「遮断?」リディアが眉をひそめる。「誰かが監視を避けたってことかよ」 アランが静かに指示を出す。「フィオナ、解析を続けてくれ。セリウスとリディアは中央棟の研究室を調べてくれ。私とレオンは北棟の倉庫を調べる。オルフェは待機」「了解!」 それぞれが闇に溶けるように散っていく。 風が木々を揺らし、どこか遠くで猫の鳴く声がした。 ──中央棟・研究室前。 セリウスは慎重に扉を押し開けた。 古びた魔導機器と埃の積もった本棚。 誰もいないはずの部屋の奥で、淡い光が瞬いている。「……魔力残留反応。最近、使われた形跡があるな」 リディアが呟き、指先から小さな探査光を放つ。 机の上には、見慣れぬ印章の押された封筒があった。「帝国の……紋章?」 封筒の裏には、鷹の爪を模した紋様が刻まれている。 セリウスが息を呑む。「誰かが、ここで通信を――」 その瞬間、背後の扉が軋んだ。 反射的に剣を抜くセリウス。 だ
夜の王都郊外。 《ヴァルロワ学舎》の外れにひっそりと建つ旧研究塔、表向きは、すでに廃棄指定されて久しい。 だが、その地下には今も稼働中の装置がある――学長ヴァルターが手掛けた「魔導通信石」の試験機。 それこそが、帝国が狙う機密だった。「……静かすぎるな」 塔の影から様子を窺うアランが、低く呟く。 月明かりに照らされた古塔は、まるで眠っているかのように微動だにしない。「警備の巡回もいない。これは逆に不自然ね」 フィオナが目を細め、髪を耳にかけながら呟く。 風が草を揺らし、微かに金属の軋む音が響いた。「アラン、南側の窓が少し開いてます」 レオンが報告する。「何者かがすでに侵入した可能性が高いです」「……いくぞ」 アランの短い号令に、全員が頷いた。 セリウスとオルフェが前に出て、フィオナとリディアが後方から援護。 レオンは塔の外で警戒線を張り、アランが全体の指揮を取る。 塔の扉はすでにこじ開けられていた。 古びた階段を下ると、微かな機械音が聞こえてくる。 それは――通信石の動作音。「下だ。急ごう」 セリウスとオルフェは階段を駆け下り、地下の実験室へ突入した。残りの4人も後に続く。 そこには、漆黒のローブを纏った数人の影がいた。 中央の装置から魔力光が放たれ、転送陣がゆらめいている。「帝国の工作隊か!」 オルフェが叫び、剣を構える。「来たか……!」 スパイの一人が振り返り、セリウスに目を止めた。 それは――中庭で戦った覆面の男だった。 左足を庇うように構えている。「また会ったな、少年」 覆面の下から嗤う声。「せっかく見逃してやったのに。あれで止めていれば良いものを、ここまで知られては仕方ない。死んでもらうしかないようだな。今度は、我らが任務の完遂を邪魔
瞬間、鋭い風圧が頬を掠めた。 覆面のスパイが投げた短剣が、セリウスの耳元を通り抜け、背後の木の幹に深々と突き刺さる。 刃は淡く青い光を帯びていた――毒か、あるいは呪符付きの暗器。 (速い……! こいつ、訓練された暗殺者だ) セリウスは反射的に身を低くし、マントを翻す。 闇の中で、草木が擦れる音と共にもう一つの影が動いた。 風のような足取り。姿を見失ったと思った瞬間、背後に殺気が迫る。「っ――!」 咄嗟に剣を抜き、振り返りざまに受け止めた。 金属がぶつかる乾いた音が夜気を裂き、火花が散った。「やるな……訓練生の剣じゃない」 覆面の男が一歩退き、月光の下で構え直す。 その動きには無駄がない。軍人というより、暗部――影の諜報員のそれだ。「お前……帝国のスパイか」 セリウスの問いに、男は笑った。 「知っているか。なら話が早い。王国の未来はすでに帝国の掌の中だ」 言葉が終わるより早く、男の手首が閃いた。 短剣が三本、扇状に飛ぶ。 セリウスは横跳びでかわし、一瞬の隙を突いて間合いを詰める。「せーい!」 セリウスの横薙ぎを後ずさり、笑いながら男は躱す。 連続技で追い詰めようとするが、男はまるでそれを読んでいたかのように、煙玉を放って視界を奪った。 白い煙が広がり、空気がざらつく。 (視界が……!) 次の瞬間、横腹に衝撃。 蹴りを受け、体が石畳に叩きつけられた。肺の空気が抜ける。「ぐっ……!」 だがセリウスは即座に転がり、剣を構え直した。 その瞳には恐れよりも冷静な光があった。「……いい動きだ。訓練生にしては上出来だな」 スパイが笑いながら近づく。 その足音のリズム――セリウスは気づいた。 (……左足に重心。片膝を少し引いている。前の蹴りで筋を痛めたか) ほんの一瞬の観察をもとに、セリウスは決断した。 敵が踏み
その夜。 学園では創立記念日を祝う晩餐会が開かれていた。 大食堂には煌びやかな灯りが揺れ、教員と上級生たちが談笑の声を上げていた。 壇上には白髪の老学長ヴァルターが立ち、穏やかな笑みを浮かべて杯を掲げる。「諸君、この学舎が百年の歴史を刻めたのも、若き学徒たちの努力あってのことだ。未来を担う者たちに、祝福を――乾杯!」 杯が一斉に掲げられ、拍手と笑いが広がった――その瞬間。 カラン、と音を立てて、老学長の手からグラスが落ちた。 「……学長!?」 次の瞬間、ヴァルターは苦しそうに胸を押さえ、その場に崩れ落ちた。 会場は騒然となり、教師たちが駆け寄る。 「毒か!?」「誰か、医療班を呼べ!」 剣術教官であるアランデル老教士が即座に走り出し、学園医務室から治癒魔法の使い手を呼び寄せる。 やがて、老学長は一命を取り留めた。 しかし意識は戻らず、医務官の診断はこうだった。 「体内からは毒の反応が検出されませんでした。ただし――神経を一時的に麻痺させ、幻覚を引き起こす薬物の接触痕が残っています」 その場にいた全員が息をのむ。「……つまり、飲んだワインには毒がなかったということか」 アランの言葉に、セリウスがグラスを手に取る。 私は慎重に縁に付着物がないか、解析を行った。「……微量の薬反応。これは幻覚毒《イルシオン》です。皮膚に触れるだけで幻覚と麻痺を起こす劇薬。飲まなくてもこうなります」「まさか……グラスの縁に塗られていたってこと?」 リディアが息を呑む。私はゆっくり頷いた。 その時、レオンが小声で言った。 「でも、どうやって? グラスは配膳前に全員分まとめて並べられてたはずでしょう。狙われたのが学長だけなら、特別な細工が必要です……」 私は顎に手をやり考え込む。 (グラスを取り違えず、学長の手元に届くようにするには――配膳係が仕組んだとしか思えない)「……配膳を担当したのは誰?」 アランが問い詰めるように
武闘大会も終わり、落ち着きを取り戻しつつある騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》。 セリウスたちは、日々の授業と訓練に戻り、穏やかな学園生活を取り戻していた。 訓練場では木剣の音が響き、魔法演習場には詠唱の声が流れる。あの熱狂的な大会の日々が、もう遠い過去のように感じられるほどだった。「ふぅ……今日はこれで終わりかな」 セリウスが剣を納め、額の汗を拭う。 周囲では、レオンが魔法の制御練習を終え、オルフェは筋トレの締めに腕立てをしていた。「ようやく、静かな日常に戻ったな」 リディアが言うと、オルフェが笑う。 「静かすぎて退屈だな。俺はそろそろ外で暴れてーぜ!」「まったく……君は戦うことしか考えてないのね」 フィオナがため息をつきながらも微笑む。 その穏やかな空気に包まれた訓練場の門前で、突然、軍服を着た伝令の兵が駆け込んできた。「《アラン・リヴィエール》殿、並びにその仲間の方々に通達!」 訓練場に響き渡る声に、生徒たちのざわめきが広がる。「通達?」 アランが首を傾げると、兵士は胸を張って告げた。 「王国軍総司令、ゼルディア将軍閣下より召喚命令がございます! 本日夕刻、王立軍本部にてお待ちとのこと!」 訓練場の空気が一瞬で引き締まる。 ゼルディア将軍――王国軍を束ねる最高司令官であり、王都防衛の英雄。 生徒どころか、地方の騎士ですら直接言葉を交わすことなど滅多にない。だがセリウス達はオークションの一件で、将軍から、後日、王国から依頼が届くだろうと告げられている。「ゼルディア将軍……とうとう来たか!」 リディアが驚きを隠せずに呟く。「なにか……あったのかもしれないね」 レオンの声が低く響く。「この前言ってた王国からの特別任務……ってやつか」 オルフェがわくわくしたように拳を握るが、セリウスは静かに息を吐いた。「とにかく行こう。命令なら従わないわけにはいかない」 アランが、四人を見回していった。
大会の喧騒が過ぎ去って数日。 《ヴァルロワ学舎》の中庭には、ようやく落ち着いた空気が戻っていた。 澄み渡る秋空の下、紅葉がはらりと舞い落ちる。 ベンチの上では、セリウスとリディア、オルフェ、フィオナが昼休みを楽しんでいた。「いや〜、ようやく終わったな。大会。見てるだけでも疲れたぜ」 パンをかじりながら、オルフェが伸びをする。「おまえは一回戦で全力出しすぎたんじゃねーの」 リディアが呆れ顔で言うと、オルフェは苦笑いを浮かべた。「だって相手、めっちゃ剣速速かったんだぜ。油断したら即終了コースだったんだ」 隣で紅茶を飲んでいたフィオナが、静かに笑う。 「でも、見事な戦いぶりでしたわ。観客席でも拍手が起きていましたもの」「お、おう……そ、そうか? あはは。フィオナがいうならそうなんだろう」 褒められて、オルフェは耳まで赤くなる。オルフェは何度も勝ち抜いたフィオナの事を認めているようだ。彼にとっては、強さこそ正義である。 セリウスはその様子を微笑ましく見守りながら、手元の資料を閉じた。 「これで次は、年末の筆記試験か。気が抜けないなー」「セリウスは真面目すぎるなあ。少しは休まないと」 リディアがそう言って、にやりと笑う。 彼の笑みは以前よりも柔らかく、《呪具の持ち込み事件》の緊張感が抜けた今だからこその穏やかさがあった。「でも、事件の時のことを思うと……こうして平和なのが一番ですね」 レオンが目を細めて呟く。「そうだな」 セリウスが頷く。 ほんの数週間前まで、教官が敵国の間者だったなんて信じられないほど、今の学院は穏やかだった。 それでも、誰もその事件を軽んじることはない。 皆、心のどこかに「何かを守るために強くなりたい」という思いを刻みつけていた。「……あ、そうだ!」 オルフェが立ち上がった。 「明日の振り替え休日に、みんなで街に行こうぜ! 大会お疲れ様会ってことで!」「まぁ、悪く